高いオシロか安いオシロで十分か?

2023.01.01

大阪大学大学院工学研究科電気電子情報通信工学専攻 教授 舟木剛

 

最近のオシロスコープのカタログ性能の向上は著しい。

 

チャンネル数・サンプリング周波数・アナログ周波数帯域や分解能などの本体の性能向上だけでなく,

ペリフェラルであるプローブも合わせて広周波数帯域化されている。

更にプローブの立ち上がりエッジの補正も自動化されているものもある。

 

何百万円もするハイエンドのオシロスコープの性能向上だけでなく,10万円以下のローエンドのオシロスコープでさえも

10数年前のハイエンドオシロスコープの性能に匹敵するものとなっている。

 

さてここで疑問を呈してみる。

より高性能のオシロスコープを使用すれば,より高い精度での測定となるのであろうか?

 

答えはYesでもありNoでもある。

 

すなわち被測定対象を含む測定系全体が,使用するオシロスコープの性能に合致したものでなくては,その性能を活かすことができない。

 

オシロスコープを用いた測定といえば,図1のようにプローブ先端を測定点に当て,ミノムシクリップでアースに接続するような方法が

一般的なイメージではなかろうか。

 

図1 ミノムシクリップでアースに接続

 

 

 

このような接続でも電気的には被測定対象とつながっており,電圧波形を取得することができる。

 

周波数帯域1GHzのシングルエンド受動電圧プローブにもアース接続用のミノムシクリップのついたリードが同梱されており,

前述のような測定ができるようになっている。

 

しかしながらミノムシクリップでアースに接続するような測定では,プローブの持つ本来の性能を発揮することができない。

ミノムシクリップとプローブをつなぐリード線がプローブチップの間でループを形成し寄生インダクタンスを生じるとともに,

測定対象の周辺で生じた磁束が鎖交し,予期しない電圧が誘導される。

 

オシロスコープのプローブには図2に示すアーススプリングが付属していることが多い。

付属していなくてもスズメッキ線などで簡単に作ることができる。

 

2ではプローブのクリップ部を取り外してアーススプリングを取り付けている。

 

図2 プローブとアーススプリング

 

 

 

アーススプリングを使用して,測定点近傍でアースに接続することによってプローブチップ先端とアースが形成するループが小さくなり,

ここで生じる寄生インダクタンスや,外部の影響による誘導電圧も小さくなる。

 

ただしプローブチップ先端とアースを被測定対象に確実に接続するためプローブを保持する必要がある。

特に測定対象が微細なプリント基板配線である場合は,人手で正確な位置に保持しつづけることは難しく,

3に示すプローブポジショナー(プローブスタンドとも呼ばれる)を使用することが望ましい。

 

図3 プローブポジショナーによるアーススプリングを取り付けたプローブの接続

 

 

 

またプリント基板の設計段階からオシロスコープでの測定を予め考慮に入れることができる場合は,SMA, BNC, MMCXなどのRFコネクタを

測定点に隣接して配置することができる。

 

オシロスコープには図4に示すようなプローブチップアダプタというオプションがある。

 

図4 BNCコネクタに接続するためのプローブチップアダプタ

 

 

 

これを用いると図5のようにプローブチップの先端とアースをRFコネクタに直接接続することができ,形成されるループは極小となる。

 

ただしプリント基板に設置するRFコネクタと測定点への配線パターンも相応の配慮が必要である。

 

図5 測定点にBNCコネクタを設置した測定

 

 

 

以上に述べたようにオシロスコープを用いた測定において,被測定対象にどのようにプローブを接続するかが非常に重要である。

 

いくらハイエンドのオシロスコープを用いても中途半端なプローブの接続ではその性能を活かすことができない。

ローエンドのオシロスコープでもきちんとプロービングを行えば,性能の限界まで利用することができる。

ハイエンドのオシロスコープを用いても,きちんとした測定系を構築しなければ宝の持ち腐れとなる。

 

拙稿が計測に関わる諸氏の業務に少しでも役に立てば幸いである。

 

大阪大学 大学院 工学研究科 

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