大阪大学大学院工学研究科電気電子情報通信工学専攻 教授 舟木剛
最近のオシロスコープのカタログ性能の向上は著しい。
チャンネル数・サンプリング周波数・アナログ周波数帯域や分解能などの本体の性能向上だけでなく,
ペリフェラルであるプローブも合わせて広周波数帯域化されている。
更にプローブの立ち上がりエッジの補正も自動化されているものもある。
何百万円もするハイエンドのオシロスコープの性能向上だけでなく,10万円以下のローエンドのオシロスコープでさえも
10数年前のハイエンドオシロスコープの性能に匹敵するものとなっている。
さてここで疑問を呈してみる。
より高性能のオシロスコープを使用すれば,より高い精度での測定となるのであろうか?
答えはYesでもありNoでもある。
すなわち被測定対象を含む測定系全体が,使用するオシロスコープの性能に合致したものでなくては,その性能を活かすことができない。
オシロスコープを用いた測定といえば,図1のようにプローブ先端を測定点に当て,ミノムシクリップでアースに接続するような方法が
一般的なイメージではなかろうか。
図1 ミノムシクリップでアースに接続
このような接続でも電気的には被測定対象とつながっており,電圧波形を取得することができる。
周波数帯域1GHzのシングルエンド受動電圧プローブにもアース接続用のミノムシクリップのついたリードが同梱されており,
前述のような測定ができるようになっている。
しかしながらミノムシクリップでアースに接続するような測定では,プローブの持つ本来の性能を発揮することができない。
ミノムシクリップとプローブをつなぐリード線がプローブチップの間でループを形成し寄生インダクタンスを生じるとともに,
測定対象の周辺で生じた磁束が鎖交し,予期しない電圧が誘導される。
オシロスコープのプローブには図2に示すアーススプリングが付属していることが多い。
付属していなくてもスズメッキ線などで簡単に作ることができる。
図2ではプローブのクリップ部を取り外してアーススプリングを取り付けている。
図2 プローブとアーススプリング
アーススプリングを使用して,測定点近傍でアースに接続することによってプローブチップ先端とアースが形成するループが小さくなり,
ここで生じる寄生インダクタンスや,外部の影響による誘導電圧も小さくなる。
ただしプローブチップ先端とアースを被測定対象に確実に接続するためプローブを保持する必要がある。
特に測定対象が微細なプリント基板配線である場合は,人手で正確な位置に保持しつづけることは難しく,
図3に示すプローブポジショナー(プローブスタンドとも呼ばれる)を使用することが望ましい。
図3 プローブポジショナーによるアーススプリングを取り付けたプローブの接続
またプリント基板の設計段階からオシロスコープでの測定を予め考慮に入れることができる場合は,SMA, BNC, MMCXなどのRFコネクタを
測定点に隣接して配置することができる。
オシロスコープには図4に示すようなプローブチップアダプタというオプションがある。
図4 BNCコネクタに接続するためのプローブチップアダプタ
これを用いると図5のようにプローブチップの先端とアースをRFコネクタに直接接続することができ,形成されるループは極小となる。
ただしプリント基板に設置するRFコネクタと測定点への配線パターンも相応の配慮が必要である。
図5 測定点にBNCコネクタを設置した測定
以上に述べたようにオシロスコープを用いた測定において,被測定対象にどのようにプローブを接続するかが非常に重要である。
いくらハイエンドのオシロスコープを用いても中途半端なプローブの接続ではその性能を活かすことができない。
ローエンドのオシロスコープでもきちんとプロービングを行えば,性能の限界まで利用することができる。
ハイエンドのオシロスコープを用いても,きちんとした測定系を構築しなければ宝の持ち腐れとなる。
拙稿が計測に関わる諸氏の業務に少しでも役に立てば幸いである。
大阪大学 大学院 工学研究科
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