アベレージング? ハイレゾ? オシロスコープでの高分解能化とノイズ平滑化

オシロスコープで信号を観測する際にノイズは非常に厄介です。

 

ノイズは測定環境から完全にシャットアウトし、DUTから出力されている純粋な信号をオシロスコープに波形として表示させるのが理想ではありますが、現実にはとても難しい事です。

 

ですのでオシロスコープを使うエンジニアは出来る限りノイズの影響を小さくして波形を表示させます。

 

今回はこのノイズの影響を出来る限り小さくする方法として「アベレージング」と「ハイレゾ」、またそれらを理解する上で重要なADコンバータの分解能について紹介したいと思います。

 

 

【目次】

1.ノイズと量子化ノイズ

2.アベレージング機能とは

3.アベレージング機能でノイズが減る理由

4.アベレージング機能の弱点

5.ハイレゾモードとは

6.ハイレゾモードでノイズが減る理由

7.ハイレゾモードの弱点

8.まとめ

9.オシロスコープの選定について

10.効率の良いオシロスコープの探し方

 

 

1.ノイズと量子化ノイズ

 

まず最初に今回の説明で重要になる2種類のノイズについて説明します。

 

 

1つ目のノイズは、測定したい純粋な信号に乗ってあらゆる邪魔をしてくる「ノイズ」。

皆さんが1番に想像されるであろういわゆる一般的なノイズで、実際に「存在する」ノイズです。

このノイズは電源ラインを伝わってきたり、空間を飛んでいたり、グラウンドから回ってきたり、オシロスコープ本体からも出てきたりします。

今回はこれらを1つにまとめて「ノイズ」と表現します。

 

 

もう1つのノイズは「量子化ノイズ」です。

量子化ノイズは先述のノイズのように実際に電圧や電力で存在しているわけでは無く、オシロスコープで見た時にそこに存在するように見えるノイズです。

これは主にADコンバータの性能によって左右されるノイズで、本来の純粋な信号よりも大きく見えたり小さく見えたりします。

 

 

量子化ノイズの仕組みを体重計で喩えてみます。

 

 

ここに3台の体重計があります。

 1つ目は神様が作った100%正確な体重計

 2つ目は0.1kgきざみに表示出来る 体重計A

 3つ目は1kgきざみに表示出来る 体重計B

 

 

これらの体重計で毎日、太郎さんの体重を測ります。

 

 

1月1日に神様の体重計で計ると60.666kgでした。

体重計A で計ると60.7kgで表示されました。

体重計B で計ると61kgで表示されました。

 

 

 

1月2日に神様の体重計で計ると60.321kgでした。

体重計A で計ると60.3kgで表示されました。

体重計B で計ると60kgで表示されました。

 

 

 

1月3日に神様の体重計で計ると61.567kgでした。

体重計A で計ると61.6kgで表示されました。

体重計B で計ると62kgで表示されました。

 

 

 

これを数日続け、グラフ化してみます。

 

 

0.1kg単位で細かく表示出来る体重計A はほとんど神様の体重計(実際の体重)と同じですが1kg単位でしか表示できない体重計B は神様の体重計と大きく誤差があるように見えます。

 

この誤差を「量子化ノイズ」と言います。

 

 

いわゆる普通のノイズのように外部からやってきて体重計に誤差を発生させている訳ではなく、あくまで体重計の分解能(表示の細かさ)の問題で表示誤差を発生させています。

 

 

 

また体重計B は1月3日までは実際の変動値よりも大きく振れていますが1月4日以降は実際の変動よりも小さくなっています。

 

 

 

 

 

このように量子化ノイズは実際には存在していないのに測定信号の変動を大きく見せたり小さく見せたりします。

 

ちなみに体重計A にも量子化ノイズはわずかに発生しています。

 

 

 

ノイズと量子化ノイズを区別、理解できれば次にオシロスコープのアベレージング機能の効果について説明していきます。

 

 

 

 

 

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2.アベレージング機能とは

 

これはある信号をオシロスコープで測定した例ですが ただのノイズにしか見えません。

 

 

ですがこれと同じトリガ条件で同じ波形を10回とって平均化をします。

 

するとギザギザしたノイズのレベルが下がりスパイクのような飛び出た波形が見えてきました。

 

 

 

 

ノイズ波形の正体はDUTから出力されている信号A+ランダムなノイズでした。

 

 

このように波形をいくつも重ね合わせて平均化する機能が「アベレージング機能」です。

 

 

 

3.アベレージング機能でノイズが減る理由

 

なぜアベレージングする事によりノイズが減少したのかというと、基本的にノイズはランダムに発生するからです。

 

 

例えばオシロスコープの画面上に1Vp-pのノイズが表示されていた場合、ノイズは-0.5V~+0.5Vの間でランダムに発生している事になります。

 

 

 

このランダムに発生しているノイズ(信号)は平均化する回数を増やせば増やすほど0に近くなります。

 

 

対してDUTから出力されている信号(測定対象信号)は毎回必ず発生しますのでこれを平均化処理しても値が変わる事はありません。

 

 

と、いった理由により、ノイズだけが低減され、測定対象の信号が見え易くなります。

 

 

 

このアベレージングは回数を重ねれば重ねるほど効果を発揮します。

 

下記はアベレージング10回と20回行った比較ですが20回の方がほんの僅かですがノイズが小さくなっています。

数百回すればさらにはっきりと違いを感じれるでしょう。

 

 

 

 

アベレージングの例2

 

 

 

4.アベレージング機能の弱点

 

しかしこのアベレージング機能には弱点があります。

 

それはアベレージングをする回数分の波形を取る必要があるという事です。

 

仮に測定対象の信号が1度しか出ない単発信号だった場合にはアベレージング機能は使えません。

 

そのような時に使えるのが単発信号でもノイズを低減できるハイレゾモード(高分解能モード)などと呼ばれる機能です。

 

 

 

5.ハイレゾモードとは

 

単発信号でもノイズを低減できるハイレゾモードという機能があります。

 

ハイレゾーモードもやっている事はやはり平均化です。

 

 

アベレージではオシロスコープの中で波形を作ってからそれを平均化していましたがハイレゾモードでは波形を作る前の複数のサンプリングポイントを移動平均化して1つのサンプリングポイント(波形の1ポイント)としています。

 

 

例えばこのようなノイズ波形を普通にサンプリングしてもノイズだらけで表示されますが、複数個のサンプリングポイントを移動平均として1つのポイントとして使用すればノイズは低減されます。

 

 

 

 

この方法であれば単発信号でもノイズの平滑化が可能です。

 

 

 

ハイレゾモードをシミュレーションしてみます。

*ハイレゾモードON/OFFの違いが分かり易いように波形を拡大している状態とします。

 

 

 

ハイレゾモードをONにするとノイズが低減されているように見えます。

 

 

 

 

6.ハイレゾモードでノイズが減る理由

 

このノイズ低減効果には大きく2つの要因があります。

 

 

1つはアベレージング機能と同じくサンプリングポイントを平均化する事によるノイズの低減。

ただしこれは測定信号に対して十分なサンプリング速度を確保できている事が条件です。

(理由は後述します)

 

 

もう1つは冒頭に説明をした「量子化ノイズ」です。

 

 

 

8bitのオシロスコープは縦軸を256分割しています。*実際はもっと荒い分割ですが今回は説明の為に256とします。

 

 

例えば画面全体に10Vの波形を出したとすると

10V÷256 = 約40mV きざみ(分解能)で表示されています。

 

 

40mV分解能という事はオシロスコープのAD分解能は0mV、40mV、80mV、120mVというきざみでしか測定が出来ないという事です。

 

この波形にのっている小さい振幅やリップルを見たい場合に40mVの分解能では小さな変動や動きがあまりわかりません。

 

 

 

 

この量子化ノイズにもハイレゾモードは有効です。

 

例えばサンプリングしたポイントが 40mV 80mV 40mV 40mV だったとします。

 

この4点を平均化すると(40mV+80mV+40mV+40mV)÷4で

50mVとなります。

 

こうする事により40mVきざみの分解能では計測出来なかった50mVという値がオシロスコープ上で表現できるようになります。

 

 

 

これにより8bitADコンバータでも8bit以上の分解能で信号を表現する事が出来るようになり、結果的に量子化ノイズが小さくなるというわけです。

 

 

オシロスコープのカタログなどでハイレゾモード(高分解能モード)で「最高12bit相当分解能」とうたわれているのはこのような仕組みになっています。

 

 

12bitADコンバータなど最初から高分解能のADコンバータを搭載しているオシロスコープであれば16bit相当など更に高い分解能を実現できます。

 

 

 

7.ハイレゾモードの弱点

 

ですが、やはりハイレゾモードにも弱点があり、それは周波数帯域が犠牲になるという事です。

 

ハイレゾOFFで0V、0V、5V、0Vとサンプリングした場合は5Vの尖った波形が表示されますが、ハイレゾをONにするとたった1つの1.25Vのポイントになってしまいます。

 

 

上記は極端な例ですが簡単に言うとノイズでなくとも平均化されてしまう。実際に見たい信号まで平均化してしまうという事です。

これは先ほど説明した「測定信号に対して十分なサンプリング速度を確保できている事」という条件につながります。

ハイレゾを使う事によりサンプリング速度が不足してしまう=周波数帯域が大きく下がってしまう。という事になります。

 

 

このような理由によりハイレゾモードを使用すると周波数帯域が下がる事が一般的ですので必ずデータシートなどで分解能と帯域を確認する必要があります。

 

 

 

8.まとめ

 

簡単にまとめるとアベレージング機能もハイレゾモードもノイズを平滑化したり電圧の分解能を上げたり出来る事は同じですが、

 

・アベレージングは単発信号には使用できない

・ハイレゾモードは周波数帯域とのトレードオフ

 

という副作用があるという事です。

 

 

 

9.オシロスコープの選定について

 

またこれまで説明したノイズ低減効果や高分解能が必要な計測にはオシロスコープ本体のノイズ、それに伴う有効分解能(ENOB)、オフセットレンジなどがとても重要になります。

 

あまり代表スペックでは取り上げられることが少ないですがこれらのスペックもとても重要です。

 

それらも考慮して最適なオシロスコープを選定する事が非常に重要です。

 

 

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