オシロスコープの機種選定 完全版
各節の結論だけ読めば選べます。数字の読み替えは、その場のツールで確かめられます。
カタログの数字の読み方と、数字だけでは分からない 10 項目
この記事の使い方
オシロスコープは、カタログの数字だけでは選べません。数字で決まるのは「どこまで見えるか」までで、「毎日使って困らないか」「壊れたときに仕事が止まらないか」はカタログに書いていないからです。
選定の順番は、「何を見たいか」→「どこから上は見えなくてよいか」→「候補を絞る」→「実機を触る」→「総額とサポートで決める」です。性能を上から順に欲張ると上限がなく、予算が先に尽きます。「諦める性能」を先に決めるのが、必要十分な一台に最短でたどり着く道です。
カタログに書いてあること
数字の読み方と、その場のツールでの確かめ方
1帯域
信号の「立ち上がり時間」から決めます。クロックの周波数からは決まりません。
本当の信号(白)と、サンプリング速度は必要以上に速いまま、帯域だけ低くしたオシロ A(黄)です。
- オシロ A の角が丸く、立ち上がりが遅く見えるのを確かめる。点はいくらあっても、入り口の回路が追いつかない速さは記録されていない。
- 「オシロ B を追加」して、B の帯域だけを上げていく。どこから丸みが気にならなくなるかが、あなたの信号に必要な帯域。
くわしく
帯域は、オシロの入り口の回路が信号の変化に追いつける速さの限界です。足りないと、波形の角が丸くなり、立ち上がりが本当より遅く見えます。角が丸くなっているのに「この信号は遅い」と判断してしまうのが、帯域不足のいちばん怖いところです。
よくある誤解が「見たい周波数の数倍あれば足りる」です。同じ周波数のクロックでも、エッジが速い信号ほど高い周波数成分を含むので、必要な帯域はエッジの速さで決まります。
目安は、オシロの立ち上がり時間(およそ 0.35 ÷ 帯域)が、信号の立ち上がり時間の 3 分の 1 以下なら誤差およそ 5%、5 分の 1 以下ならおよそ 2% です。
もう一つの読み方として、帯域ちょうどの正弦波は振幅がおよそ 7 割に表示されます。帯域ぎりぎりの信号は「見える」けれど「正しい大きさでは見えない」と覚えてください。
決め方のコツ
帯域は、高ければ高いほど良いのは確かです。ただし、価格は帯域でほぼ決まります。そこで、「これ以上の周波数成分は、見えなくても諦める」という線を自分で引く、という考え方が一つあります。
「見たい周波数」から考えると上限がありません。どんな信号にも、もっと速い成分が少しは含まれているからです。逆に、「ここから上は仕事に関係ない」と決めると、必要な帯域に上限ができ、そこで候補が絞れます。エッジの丸みが多少あっても、タイミングと振幅が読めればよい仕事なら、誤差およそ 5% の線で十分です。
この線は、人によって、仕事によって違います。だから「この用途なら何 MHz」という一般論は当てになりません。自分の信号で、どこまで落としたら困るかを、シミュレータで確かめて決めるのがいちばん確実です。
カタログの読み方
- 帯域はプローブと組み合わせた「システム帯域」で下がります。付属プローブの帯域も必ず見ます(プローブの節へ)。
- 感度の高いレンジ(小さい V/div)では帯域が下がる機種があります。小さい信号を速く見たいときは、その条件の帯域を確認します。
- 帯域を後からライセンスで上げられる機種があります。今は低く買って、必要になったら上げる、という選び方ができます(拡張性の節へ)。
2サンプリング速度
帯域の 2.5 倍が基準です。速いエッジを拡大して正確に見たいなら、4〜5 倍あると安心です。
今度は帯域が十分で、サンプリング速度が帯域の 2.5 倍しかないオシロ A です。
- ズームで速いエッジを拡大して、本当はない波打ちが出るのを見る。
- 「オシロ B を追加」して、最大サンプリング速度だけを 4〜5 倍に上げ、波打ちが消えるのを確かめる。
くわしく
オシロは決まった間隔で点を拾い、点の間を計算でつないで描きます。点が少ないと、拡大したときに本当はない波打ちが出たり、点と点の間で一瞬だけ出たスパイクを見逃したりします。
業界の帯域表記は、サンプリング速度が帯域の 2.5 倍あることを前提に組み立てられています。これを下回る組み合わせは、帯域の数字どおりには見えません。
カタログの読み方(ここが落とし穴)
- 最大サンプリング速度は、使うチャンネルが少ないときの値であることが多いです。チャンネルを増やすと半分、さらに半分、と下がる機種があります。実際に使うチャンネル数での値で比べます。
- 最近の機種には、チャンネルを全部使うと、サンプリング速度が帯域の 2.5 倍を下回るものがあります。その状態では、カタログの帯域どおりには見えません。全チャンネルを使うなら、そのときの速度が帯域の 2.5 倍あるかを必ず確認してください。
- 時間軸を長くすると、メモリ長の制約で速度が下がります(次の節へ)。最大値が出るのは、短い時間を見ているときだけです。
- 「等価時間サンプリング」の数字が大きく書かれていることがあります。繰り返し信号にしか使えないので、単発の現象を見る用途では実時間の値で比べます。
3メモリ長
必要なメモリ長 = 必要なサンプリング速度 × いちばん長く取り込みたい時間。
必要なサンプリング速度と、いちばん長く取り込みたい時間を入れると、必要なメモリ長が出ます。逆に、候補のメモリ長と時間軸から、実際に出る速度も確かめられます。
くわしく
メモリ長は、1 回に記録できる点の数です。長い時間を取り込むと、同じ数の点を広い時間に配るため、点の間隔が広がり、サンプリング速度が下がります。
つまりサンプリング速度とメモリ長はセットです。「速度は十分なのに、起動の瞬間から数十ミリ秒を見ようとしたら荒くなった」という失敗は、メモリ長の不足です。
カタログの読み方
- 実際のサンプリング速度は、「最大サンプリング速度」と「メモリ長 ÷ 取り込み時間」の小さい方です。
- 取り込み時間は、画面の目盛り数(10 div)× 時間軸です。
- 「いちばん長く取り込みたい時間で、何 S/s 出るか」で機種を比べると、差がはっきり出ます。
- メモリ長もチャンネル数で分け合う機種があります。使うチャンネル数での値を確認します。
- 長いメモリは、画面の描き直しや自動測定が遅くなる原因にもなります。「最大で設定できる」ことと「快適に使える」ことは別です(操作性の節へ)。
シミュレータで 2 台のメモリ長だけを変え、時間軸を少しずつ長くしていくと、メモリの少ない方はある時間軸から急に速度が落ち、波形が粗くなります。メモリ長はどれだけ必要?(個ページ)
4ビット数とノイズ
多くの人が AD のビット数にこだわりますが、実際に細かさを決めるのはノイズ性能です。ビット数は「上限」、ノイズは「実際に見える細かさ」と分けて考えてください。
拾った点の高さを段にそろえる様子を、2 台で見比べます。段が粗いと、元の高さからずれます。シミュレータでは、片方をビット数が多くノイズが大きい設定、もう片方をビット数が少なくノイズが小さい設定にして、小さな信号を入れてみてください。ビット数の差より、ノイズの差の方が効くことが分かります。
くわしく
ビット数は、画面の縦をいくつの段に分けるかです。8 bit は 256 段、12 bit は 4096 段です。段が粗いと、電源のリップルのような「大きな直流に乗った小さな変化」が段に埋もれます。
注意したいのは、段の数は画面の縦いっぱいに対する数だということです。信号が画面の一部しか使っていなければ、使える段はその分だけ減ります。V/div を合わせて縦いっぱいに表示するのが基本です。
ビット数よりノイズ
ビット数は、カタログで目立つ数字です。しかし、ビット数が決めるのは「段の数の上限」だけで、その段が実際に見分けられるかどうかはノイズが決めます。入力の回路やアンプで生まれるノイズが段の幅より大きければ、段をいくら細かくしても、波形はノイズの太さで描かれます。
ビット数の少ない機種でノイズが小さいものと、ビット数の多い機種でノイズが大きいものを比べると、小さな信号は前者の方がきれいに見えることがあります。ビット数の差は画面を見ただけでは分かりにくく、ノイズの差は波形の太さとして一目で分かります。
カタログのビット数だけでなく、使う V/div でのノイズ(rms)を確認してください。この数字を載せていないカタログもあります。載せていないときは、実機で入力を短絡して波形の太さを見るのがいちばん確実です。感度の高いレンジ(小さい V/div)でのノイズが、機種の差がいちばん出るところです。
カタログの読み方
- 「ハイレゾ」モードで実質のビット数を上げる機種があります。帯域やサンプリング速度を犠牲にする方式なので、条件付きの数字です。
- アベレージングで細かく見る方法もあります。繰り返し信号にしか使えません。
5波形更新速度とデッドタイム
まれに起きる異常を探すなら、波形更新速度の高い機種を選びます。異常の条件が分かっているなら、トリガで捕まえる方が確実です。
取り込んだ波形を画面に描く間、オシロは信号を見ていません。見ていない時間が長い方が、まれに起きる異常を取り逃がす様子を見てください。
くわしく
オシロは、波形を取り込んで画面に描いている間、信号を見ていません。この見ていない時間がデッドタイムです。更新速度が低い機種は、1 秒のうち見ている時間がごくわずかで、その間に起きた異常は画面に出ません。
カタログの読み方
- 更新速度の最大値は、特定の時間軸で、演算や自動測定などを切ったときの値であることがほとんどです。ふだんの使い方で出る数字ではありません。
- 更新速度の高さは「異常があるかどうかを眺めて探す」ときに効きます。原因の条件が分かっていれば、トリガやセグメントメモリで確実に捕まえられ、更新速度の差は小さくなります。
6チャンネル数
同時に見たい信号の数 + 1 を目安にします。デジタル信号を多く見るなら MSO を検討します。
くわしく
- 2 チャンネルで足りる場面は多いですが、「入力と出力と、制御信号」のように 3 本目が欲しくなる場面は必ず来ます。4 チャンネルは標準的な選択です。
- デジタル入力付き(MSO)は、タイミングだけ見たい信号をデジタル側に逃がせるので、アナログ側をきれいに使えます。シリアルデコードと組み合わせると、通信のデバッグが楽になります。
- チャンネルを増やすとサンプリング速度とメモリ長を分け合う機種があります。「4 チャンネル同時に、必要な速度が出るか」で確認します。
- チャンネル間の絶縁が必要か(電位の違う場所を同時に見るか)も、ここで決めます。普通のオシロのチャンネルはグラウンドが共通なので、別の電位に当てると短絡します。絶縁入力の機種か、差動プローブが必要です(プローブの節へ)。
7トリガ
見たい現象を「言葉で言える」なら、その条件のトリガがある機種を選びます。
くわしく
トリガは、波形のどこを画面の基準にするかを決める仕組みです。エッジトリガだけで済む仕事は多いですが、「幅の狭いパルスだけ」「通信の特定のアドレスだけ」「立ち上がりが遅いときだけ」のように条件が付くと、対応するトリガがあるかどうかで作業時間が大きく変わります。
確認したい項目
- パルス幅、ラント、ロジック、シリアル(通信の種類)など、使う条件のトリガがあるか。
- セグメントメモリ:トリガのたびに波形を区切って記録し、空白の時間はメモリを使わない方式。まれな現象を長時間ためるのに向きます。
- ホールドオフ、プリトリガ:基本機能ですが、設定の範囲が狭い機種があります。
- 外部トリガ入力の有無。ないと、トリガ用の信号をアナログチャンネルに入れることになり、チャンネルを一つ無駄にします。4 チャンネルを 4 本とも波形に使いたいなら、必須です。
8入力(インピーダンス・最大入力・カップリング)
高周波や 50 Ω 系の信号を見るなら 50 Ω 入力のある機種。それ以外は 1 MΩ で足りますが、最大入力電圧は必ず確認します。
くわしく
- 1 MΩ 入力は、回路への影響が小さく、パッシブプローブと組み合わせる標準の入力です。
- 50 Ω 入力は、高周波の信号を反射なく受けるための入力です。帯域の高い機種には付いていることが多く、ない機種では外付けの終端で代用します。
- 1 MΩ と 50 Ω を切り替えると、使えるプローブと帯域が変わります。パッシブプローブは 1 MΩ で使うもので、アクティブプローブや同軸ケーブルの直結は 50 Ω で使います。機種によっては、50 Ω のときだけ最大の帯域が出て、1 MΩ では帯域が下がります。カタログの帯域が、どちらの入力での値かを確認してください。
- 最大入力電圧は、入力の種類で大きく違います。50 Ω 入力は小さな電圧しか受けられません。大きな電圧を扱う現場では、ここを読み落とすと機器を壊します。
- カップリング(DC・AC・GND)の切り替えは基本機能ですが、AC カップリングで見える下限の周波数は機種で違います。
dB換算で系のインピーダンスに「オシロの 1 MΩ 入力」を選ぶと、dBm と電圧の読み替えの注意が出ます。 用語集:1 MΩ 入力と 50 Ω 入力
9解析機能
毎日使う機能だけを基準にします。「あれば便利」はほとんど使いません。
くわしく
- FFT:波形に含まれる周波数成分を見る機能。ノイズの原因探しに使います。周波数分解能と、どこまで細かく見られるかは、メモリ長と窓関数で決まります。
- シリアルデコード:通信の波形を文字や数値に直して表示。対応する通信の種類は機種とオプションで違います。
- 演算(Math):チャンネル同士の引き算、積分、微分など。差動を 2 本の引き算で代用するときに使います。
- 自動測定:立ち上がり時間や周期などを数値で出す機能。同時に表示できる項目数と、統計(最大・最小・ばらつき)が出るかを確認します。
- 残光表示:まれな波形を重ねて浮かび上がらせる表示。更新速度の高い機種で効きます。
- マスクテスト、電源解析、ジッタ解析などは、用途が決まっている人向けのオプションです。
10カタログスペックは「最大値」である
カタログの数字は、いちばん条件の良いときの値です。自分の使い方での値を、メーカーか販売店に聞いて確かめます。
くわしく
| 項目 | 最大値が出る条件 | 自分の条件で確認すること |
|---|---|---|
| 帯域 | 本体のみ、感度の高くないレンジ | 付属プローブ込み、使う V/div での帯域 |
| サンプリング速度 | チャンネルを少なく使ったとき、短い時間軸 | 使うチャンネル数と、いちばん長い取り込み時間での値 |
| メモリ長 | チャンネルを少なく使ったとき | 使うチャンネル数での値 |
| ビット数 | 画面の縦いっぱいに表示したとき | 使う V/div でのノイズ(rms) |
| 波形更新速度 | 特定の時間軸、解析機能を切ったとき | ふだんの設定での値 |
「スペック表の脚注」を読むのが、選定でいちばん効率の良い時間の使い方です。脚注がない数字は、条件を質問してください。
カタログの数字だけでは分からないこと
買ったあとに効いてくる項目
11画面の大きさと見やすさ
画面の大きさは、作業効率を大きく変えます。ノートパソコンの画面と同じです。ただし、画面が大きくても波形の表示エリアが小さい機種は使いづらいので、「波形がどれだけ大きく出るか」で見ます。
くわしく
小さい画面で波形を読む作業は、小さいノートパソコンで表計算をするのと同じで、拡大と移動を繰り返す時間がそのまま積み上がります。毎日使う道具なので、ここで削った費用は、作業時間で何倍にもなって返ってきます。
画面の大きさはカタログに書いてあります。でも、画面の寸法と波形の表示エリアは別物で、表示エリアの大きさは書いていません。画面に表示されるのは、波形だけではありません。チャンネルの設定、トリガ、自動測定の値、カーソル、デコード結果、FFT。4 チャンネルと測定値を同時に出すと、小さい画面では波形が細い帯になります。
確認したい項目
- 波形を表示する領域の実際の大きさ。メニューや測定値を出したときに、波形がどれだけ狭くなるか。画面が大きいのに波形のエリアが小さい機種は、ここで分かります。
- 画面の解像度。解像度が低いと、長いメモリの波形は細部がつぶれます。ズームの操作感と合わせて見ます。
- 明るさと視野角。装置の脇や、立った姿勢で斜めから見ることは多いです。
- 波形の色分けと線の太さの変え方。色覚の違う人が使うなら、ここは重要です。
- タッチ操作の有無と、つまみとの併用のしやすさ(次の節へ)。
- 外部モニタ出力。報告や教育で、大きな画面に映す機会があるなら必須です。
- 小型機・ハンドヘルド機は、画面の小ささを「持ち運べること」と引き換えにしています。据え置きで使うなら、その引き換えは損です。
12操作性
操作性はカタログでは分かりません。展示会は、候補の機種を実際に触って比べられる有効な機会です。
くわしく
- つまみの数と役割。チャンネルごとに V/div と位置のつまみがある機種と、共通のつまみを切り替えて使う機種では、4 チャンネルを扱うときの手数が違います。
- タッチだけの機種は、画面が汚れる現場や、手袋で触る現場では使いにくいことがあります。
- 反応速度。時間軸を変えたとき、メモリを長くしたとき、FFT を出したときに、画面が止まる時間。長いメモリを売りにする機種ほど、ここを確かめます。
- 起動時間。朝いちばんや、現場で電源を入れてから波形が出るまでの時間。
- オートセットの賢さと、戻しやすさ。初心者が使うなら重要です。
- メニューの階層の深さ。よく使う機能が何回の操作で出るか。
- 表示言語とヘルプ。若手や新人が使うなら、日本語表示とその質を見ます。
- ファンの音。静かな部屋で長時間使うと、意外に気になります。
13保存方法と PC 連携
波形を「見る」より「残す」「人に見せる」時間の方が長い仕事なら、保存まわりで機種を選びます。ネットワークにつなぐなら、社内のルールで許されるかを先に確認します。
くわしく
- 画面コピーの保存先(USB メモリ、内蔵、ネットワーク)と、ワンボタンで保存できるか。
- 保存できる形式。画像、波形データ(CSV など)、設定、リファレンス波形。波形データに時間の情報が付くか。
- 長いメモリの波形を保存するときの時間。長いメモリほど保存は遅くなり、CSV は巨大になります。
- ネットワーク接続と、PC から遠隔で操作・取得できるソフトの有無。自動化や、試験室に入れない場所での測定で効きます。
- PC ソフトの対応 OS と、更新が続いているか。古い機種は、ソフトが新しい OS で動かなくなります。
- 報告書に貼る画面の見やすさ。白背景で保存できるか、色を反転できるか。
- 標準で付いてくるアプリケーションソフトの使い勝手。波形の取り込み、表示、保存、報告書への貼り付けが、そのソフトだけで一通りできるか。有償ソフトを買わないと実用にならない機種もあります。
- データの移行。今まで使っていた機種の波形データや設定を、新しい機種やソフトで開けるか。メーカーが変わると、過去のデータが読めなくなることがあります。過去の測定と比べる仕事なら、ここは買う前に確かめます。
- 社内ネットワークのルール。会社によっては、ネットワークにつなげる機器の種類や OS が決まっていたり、情報システム部門の許可が要ったりします。「ネットワークにつなげば便利」が、そもそも許されない場合があります。買う前に、つなぐ予定の機器として申請が通るかを確認します。
- セキュリティ。OS の更新が止まった機種は、ネットワークから外されることがあります(保証とサポート期間の節へ)。USB メモリの使用が禁止されている会社では、保存の手段そのものが変わります。
- データのセキュリティ。社外に持ち出せない現場では、内蔵メモリを消去できるか、USB を禁止できるかが条件になります。
14プローブの種類と汎用性
本体より先にプローブで失敗します。付属プローブの帯域、将来必要になるプローブ、他の機種との使い回しを、本体と同時に決めます。
くわしく
付属プローブ
- 本体の帯域より低い帯域のプローブが付属していることがあります。その場合、システム帯域はプローブで決まります。
- 10:1 のパッシブプローブは、本体と組み合わせて補正が必要です。補正が合っていないと、波形の角が本当より丸く、または尖って見えます。
- グラウンドリードが長いと、速いエッジで波打ちが出ます。短いグラウンドの付属品があるかも見ます。
必要になるプローブ
- アクティブプローブ:高い帯域で、回路への影響を小さくしたいとき。本体の専用インターフェースから電源を取るので、本体と組み合わせが決まります。
- 差動プローブ:グラウンドから浮いた 2 点間を見るとき。電源やモータの現場では、これがないと測れない信号があります。
- 電流プローブ:電流を波形で見るとき。クランプ式の帯域と、流せる電流の上限を確認します。
- 高電圧プローブ:大きな電圧を安全に見るとき。測定カテゴリと組み合わせて選びます。
汎用性(ここが見落とされます)
- 後からプローブの種類を増やすとき、選べるのは基本的に同じメーカーのラインナップだけです。そのメーカーに、将来必要になる種類(差動、電流、高電圧など)があるかを、本体を買う前に確認します。ラインナップにないと、選びようがありません。
- 別のメーカーのプローブを組み合わせて使うことはできますが、保証の対象外になったり、性能の保証(帯域や確度)が成り立たなくなったりします。不具合があったときに、どちらの責任かが決まらなくなります。
- 同じメーカーでそろえても、プローブの価格が高いメーカーでは、種類を増やすたびに費用がかさみます。本体の価格だけでなく、将来買うプローブの価格表も見て、総額で比べます(総額の節へ)。
- 専用インターフェースのプローブは、同じメーカーの対応機種でしか使えません。将来、別の機種を増やすときに、資産が引き継げるかを考えます。
- 一般的な BNC のパッシブプローブは使い回せますが、補正の範囲(本体の入力容量)が合わないと、正しく補正できません。
- プローブは消耗品です。先端、グラウンドリード、交換部品が単品で買えるか、価格はいくらかを確認します。
- プローブの保証期間は本体と別で、短いことが多いです(保証の節へ)。
15修理・サポート体制
壊れたときに仕事が何日止まるかを、買う前に聞きます。「どこで直すか」「戻ってくるまでの目安は何日か」の 2 点で、答えは大きく分かれます。
くわしく
- 修理の場所。国内で修理できるか、海外に送るか。海外送りは、往復と通関で、その分の時間が加わります。
- 修理の目安納期。何か月も待たされると、その間の仕事が止まります。買う前に、故障したら何日で戻るかの目安を聞いておきます。
- 修理費用は、買うときに確認します。故障してから聞くのでは遅く、金額によっては修理をあきらめて買い直すことになります。
- 修理費用が定額のメーカーでは、小さな修理でも定額分の金額がかかります。つまみ一つの交換でも、高額になることがあります。実費のメーカーでは、見積もりだけで費用が発生するかを確認します。
- 補修部品の保有期間。製造終了後に何年直せるか。
- ファームウェアの更新が続いているか。不具合の修正と、新しい機能の追加が、買ったあとにどれだけ来るか。
16メーカーまたは商社のサポート能力
買ったあとの対応は、買う前には確かめようがありません。買う前に分かるのは、窓口と資料と講習が「あるかないか」です。そこを確認します。
くわしく
- 技術的な質問を受け付ける窓口があるか。電話かメールか、受付の時間はいつか。
- 見積もりの速さと、構成の提案があるか。本体だけの見積もりと、プローブ・オプション・校正を含めた総額の見積もりでは、あとで差が出ます。
- 講習や立ち会いの有無。新人教育に使うなら、ここを頼れるかどうかで導入の負担が変わります。
- 担当者が変わっても情報が引き継がれるか。
- 海外メーカーの場合、日本語の技術資料と日本語のサポート窓口があるか。
17保証期間とサポート期間
本体の保証年数だけでなく、「何が含まれるか」「プローブは何年か」「延長できるか」を確認します。パソコンと同じ OS が入っている機種は、OS のサポート期間が計測器の寿命になることがあります。
くわしく
- 本体の標準保証。メーカーによって年数に幅があります。
- 保証の範囲。自然故障だけか、落下や過電圧の破損は対象外か。現場で使う機種は、ここが効きます。
- プローブや付属品の保証は、本体と別で短いことが多いです。
- 延長保証の有無と価格。校正とセットになった保守契約があるメーカーもあります。
OS が入っている機種のサポート期間
上位の機種には、パソコンと同じ OS が入っているものがあります。使い勝手は良いのですが、OS には別のサポート期間があります。
- OS のサポートが終わると、ネットワークにつなげなくなったり、新しい PC ソフトと通信できなくなったりします。セキュリティの決まりが厳しい会社では、サポートの切れた OS の機器はネットワークから外されます。
- OS を新しくするには、本体の部品の交換や、有償の更新が必要になることがあり、大きな費用がかかります。更新できない機種もあります。
- 買う前に、「入っている OS は何か」「その OS のサポートはいつまでか」「更新できるか、いくらかかるか」を確認します。本体の保証期間より、こちらの方が短いことがあります。
18拡張性とライセンス
今の仕事で必要な性能を買い、将来はライセンスで足す、という選び方ができる機種が増えています。「足せる項目」と「足すときの価格」を確認します。
くわしく
- 帯域のアップグレード。後から上げられる機種は、最初の投資を抑えられます。上げたときの価格と、上限を確認します。
- 解析オプション(シリアルデコード、電源解析など)のライセンス方式。永久か、期間か。本体に紐づくか、持ち運べるか。
- メモリ長の拡張。
- チャンネルの追加は、基本的にできません。チャンネル数は最初に決めます。
- ファームウェア更新で機能が増えるメーカーと、増えないメーカーがあります。
- 無償で試せる期間付きのオプションがある機種は、買う前に必要かどうかを判断できます。
19設置と環境
置き場所と使う場所を決めてから選びます。据え置きと持ち運びでは、選ぶ機種が変わります。
くわしく
- 大きさと重さ。机の奥行き、棚の高さ、持ち運ぶならかばんに入るか。
- 電源。バッテリー駆動が必要か、現場の電源で使えるか。
- 動作温度と、ファンの音。
- 測定カテゴリ(CAT)。商用電源や分電盤に直接当てるなら、本体とプローブの両方が対応している必要があります。
- 持ち運ぶなら、ケースの有無と、落としたときの保証(保証の節へ)。
- 複数人で使うなら、設定をユーザーごとに保存して呼び出せるか。
20価格と総額
本体の価格ではなく、「使える状態」にするまでの総額で比べます。キャンペーンで総額が大きく変わることがあるので、必ず確認します。
くわしく
総額に入れるもの
- 本体
- プローブ(付属品で足りないもの。差動、電流、アクティブ)
- オプション(解析、帯域、メモリ)
- 校正証明書
- 延長保証・保守契約
- PC ソフト(有償のもの)
- ケース、ラック、予備の先端
- 校正の費用(周期分)
本体が安くて、プローブとオプションで総額が逆転することは、よくあります。構成を同じにそろえた見積もりを、複数の候補で取ってください。
キャンペーンを確認する
計測器のメーカーは、期間を区切ったキャンペーンをよく行います。特に多いのが、オプションの値下げや、オプション・プローブのプレゼントです。解析オプションや帯域のアップグレードが対象になると、総額が大きく変わります。
- 候補の機種について、メーカーと販売店の両方に、今のキャンペーンと次の予定を聞きます。
- 欲しいオプションが対象なら、買う時期をキャンペーンに合わせる価値があります。
- プレゼントの対象品は、自分の仕事で使うものかを確認します。使わないプローブが付くより、必要なオプションの値下げの方が得なことがあります。
選定の手順とチェックリスト
当てはまる項目だけ、チェックを付けながら進める
選定の 5 ステップ
- 何を見たいかを書き出す:信号の種類、エッジの速さ、大きさ、本数、見たい時間の長さ、まれな異常か繰り返しか。
- 諦める性能を決める:「どこから上の速さは見えなくてよいか」「縦方向はどれだけ細かく見たいか」を決めると、帯域・サンプリング速度・メモリ長・ノイズが決まります。
- 候補を絞る:自分の条件での値(チャンネル数、取り込み時間)で比べる。カタログの最大値では比べない。候補が決まったら、オシロスコープ機種比較で 3 機種まで並べて比べられます(1ch 時と全ch 時の値を分けて出します)。
- 実機を触る:展示会は有効な機会です。操作性、波形の表示エリア、反応速度、ノイズ。
- 総額とサポートで決める:同じ構成の見積もりを複数取り、修理・保証・キャンペーンで決める。
チェックリスト
性能
使い勝手
買ったあと
全部を満たす必要はありません。「〜なら」に当てはまるときだけ確認してください。チェックはこのブラウザにだけ残ります。